東宝特撮のサウンドトラック

遂に発売された、『フランケンシュタイン対地底怪獣』『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』のサントラ。
なんとなく「そろそろ出そうだな」なんて気配は感じていたものの、発売が決まると、そして実物を手に取るとやっぱりテンションが上がる。


ジャケットからライナーノーツ(オールカラー)まで、凝りに凝った最高のリイシュー。「最終盤」の呼称に相応しい。さすがはCINEMA-KANレーベル。
今年の再発大賞は『SGT』じゃなくてこっち。

『フランケンシュタイン対地底怪獣』は、なかなかリマスターの機会にめぐまれなかったバラゴンのテーマがとにかく嬉しい。『東宝怪獣行進曲』よりも金管の荒々しさが増した感じ。
従来盤の〈東宝怪獣映画選集〉版では、権利の関係か使用されていなかったフランケンの写真も、ジャケやライナーにちゃんと復活している。


『サンダ対ガイラ』も、従来盤は〈東宝怪獣映画選集〉シリーズ。発売はちょうど20年前、1997年。
このシリーズもジャケットがカッコ良くて全部揃えたかったが、小学生にそんなマネが出来るわけもなく。
それでも『サンダ対ガイラ』だけは買ったのだが、金欠のときに売ってしまった。今は後悔しかない。

リッピングしたデータ自体は残っているので、何曲か聴き比べてみる。
劇的な音質向上はないが、20年分のテープ劣化も感じさせないのは嬉しい。
97年盤には予告編が、今回の盤には「The Word Gets Stuck In My Throat」の参考音源が収録されてるのが主な違い。

収録音源の差は置いといて、ライナーノーツはどちらも詳細で、97年盤の森田吾一氏インタビュー、17年盤の宣材類や検討稿解説は独自の内容。
だから今回の再発で97年盤の価値が下がることは無いと思う。実際、東宝ミュージックから再発されてる他の作品も、まだプレミア価格のまま取引されている。
(それでもいつか買い戻してやる)

東宝ミュージックのサントラ盤は、岩瀬政雄氏が制作に携わっている、由緒正しい正統盤。
いまのところ2枚しか持っていないが、少しずつ集めたい。


このシリーズもジャケは素晴らしい。『地球防衛軍』と『宇宙大戦争』の2枚組。


『海底軍艦』『マタンゴ』の2枚組。

ただちょっと残念なのは、マスターテープの経年劣化を補うためか、音の輪郭を若干強調してマスタリングされている印象があるのと、これも伝統の左右に広がるリヴァーブがかけられていること。このリヴァーブも80年代とは意図が違うだろう。
悪い出来ではないけど、できれば原音のままモノラルで収録して欲しかった。

岩瀬さんが定年退職なさってからリリースが止まっているので、難しそうだけどCINEMA-KANから「最終盤」としての再リリースも期待している。

田中康弘「山怪 山人が語る不思議な話」

『怪奇秘宝』でも取り上げられてたし、積ん読の山から怪談本のつもりで選んだら、期待とは違う内容に肩透かしを感じてしばらく放っておいた。
お盆に入ってもう一度読み始めたら、結構面白かった。


帯にある通り、本当に『遠野物語』な感じ。同じような事例が続く構成も似ていて、そのおかげか多少ダレるところもある。
狐や狸に化かされた、みたいな話も多い。ただこれはこれでのんびりしていて悪くはない。
著者が〈絶滅危惧種〉と形容するこの手の古老の語りを収集するのが本書の目的なので、怖さを求めて読むことが間違いだったのだ。(だから装丁は少し違うんじゃないかと思う)

「でもねえ、時々あるんですよ。大人が真っ青になって山から走って帰ってくることが。そんなのを見てると、ああ本当に何かあるのかなあって、少し信じる部分もありましたねえ」

不思議なことはあったとしても、説明がつかないような現象はない、と考えている人も、ふと上のような言葉を漏らす。
山と共に暮らしてきた生活者の実感がストレートに響いてきて、いいなぁと思った。
そして、柳田国男の『山の人生』の最後の文章を連想した。

例えば稚くして山に紛れ入った姉弟が、そのころの紋様ある四つ身の衣を着て、ふと親の家に還ってきたようなものである。これを笑うがごとき心なき人々は、少なくとも自分たちの同志者の中にはいない。

鈴木清順「陽炎座」@シネマブルースタジオ

シネマブルースタジオ。
鏡花はほとんど読んでないしどっちかというと苦手だから、『陽炎座』というと映画の印象しかない。
昔は『ツィゴイネルワイゼン』のほうが好きだったが、今はこっちのほうが好きかもしれない。


女優陣は前作と較べると物足りない。ただ主演二人の存在感が半端なく凄いから、イネやみおを誰が演ったところで大差なかったかなとも思う。
抑えた演技をしてても優作は優作。文句なくカッコよくて可笑しいところは可笑しいのだが、品子と玉脇が心中してしまったあたりからの妖気の漂い方は絶品。この世とあの世の狭間で宙ぶらりん。なんなんだろう、あの諦めなのか後悔なのか悟りなのか解らない魅力的な表情は。

最初は狂言回しのような感じなのに、実は裏ですべてに手を回している中村嘉葎雄も怖い。
彼がきちんと狂って見えてくる頃には、こっちも彼岸と此岸の区別が曖昧になっている。

あとは映画そのものに割り込んできたような芳雄さん。
いちおうアナーキストらしいが、設定なんかどうでもいい感じ。
正直言って登場する必然性があるのか疑問だし、前後との繋がりも無茶苦茶だと思うが、そこは破綻してこそ〈映画〉だ、と思う。やりたいこと全部やってやる。

陽炎座の崩落から、樽の中の品子がほおずきに包まれるシーンの流れは完璧だ。
池谷さんの美術も素晴らしい。こんなもの鈴木清順以外の誰にも撮れない。

坂口恭平「God Is Paper」

坂口恭平の〈躁でも鬱でもとにかく何かを作る〉創造力が心底羨ましい。
ドローイングでも文章でも、なんでもいいから吐き出し続ける。彼だから可能なのかもしれないが、そう考えるのは甘えだとも思う。
ズタボロに疲れていても、5分あればスケッチなり散文なりは作れる。ズタボロに疲れているからこそ作れるものもある。


彼の画集を買った。いい値段だが迷ってはいけない。
彼の絵は好きだ。脳と手が直結してる感じがする。なによりも見てて愉しい。

さらに、彼の絵にシンパシーを感じるのは、たまに自分と似たような絵を描くからだ。
(こう書くとおこがましいのかもしれないが、無駄に卑下してもしょうがない)


上は画集から。で、下の絵は6年前に描いたもの。

ありがちな描画法と言われればそれまでだが、なんかこう、自分も描かなきゃと急き立てられてしまう。
焚き付けてくれるものはどんなものでもありがたい。
とりあえず手許にあるスケッチブックを早く使い切ろう。
神は紙。

坂口恭平「God Is Paper」 はコメントを受け付けていません。 カテゴリー: 芸術 タグ ,

南直哉「なぜこんなに生きにくいのか」

生きにくいので読んでみた。
「問いに答えはない」ことを繰り返すだけの本なので、やたらメソッドの押し売りをしたがる自己啓発本なんかとは違って好感が持てる。

ただまぁ、当たり前のことが当たり前に書いてあるだけで、触発されるものも特になかった。
ブッダの言葉は少し読んでみたくなったが。

アンリ・アルヴォン「アナーキズム」

アナーキズムについての本を読もうと思ったが、意外なほど数が少ない。
どの新書にも一冊ぐらい概略書が入ってそうなもんだが、ちくま新書に入ってるだけ。
アルヴォンのこの本も定番らしいが35年も前のもの。いちおう10年前ぐらいまで重版されてたようだ。


この本を読むと、アナーキズムの概略書が少ない理由もなんとなく解る。
アナーキズムはフランス革命で樹立された自由主義へのアンチテーゼとして登場し、社会主義や共産主義と距離をとったり協調したりしつつ淘汰されていく。

すごく雑な見方だが、常に別の大衆運動との関係性によって成立していたのがアナーキズム、と読めなくもない。
そのうえ提唱者によってその中身が全く違う。便宜的に〈アナーキズム〉と括られてるだけで、それぞれ思想はバラバラだ。
こうなると専門書はともかく、うまく新書一冊にわかりやすくまとめるのは難しそう。

本書も、扱われるのはほぼ19世紀に限られるし、クロポトキンについては思いっきり割愛されて何も語られていない。
ただコンパクトにまとまってるので、読みやすいのは◎。不満を感じないのは勉強不足のせいだろう。

『白頭吟』作中のバクーニン全集の役割が一層明瞭になったのは嬉しい。
21世紀現在までの(日本を含めた)アナーキズム通史も読みたくなってくる。いい本はないだろうか。

渡邊博士「Land: 人口の地」

映画や音楽ソフト、特にデジタル媒体なら、もうパッケージメディアで鑑賞することへの拘りはほとんど無くなった。
ただ本に関しては別で、絶対に紙にインクで印刷された本じゃないと嫌だ。
確かにスマホのkindleにも漱石全集と荷風全集が入ってはいるが、お守りとか精神安定剤みたいなもので、読みたいときは本棚から重たい全集を取り出す。

ただ困ったことに、kindleでしか読めない魅力的な本(こう呼ぶことにも抵抗がある)も少しはあることも確かだ。
特に画集や写真集なんかは、よほど著名な作家じゃないと出版するにしても部数が見込めないし、そのせいで余計に価格が上がることもあるはず。

その点kindleならば、作者が作品制作からDTPまで全部手がけてしまえばいいわけで、作品を世に問う機会が増えたことは長所として認めざるを得ないと思う。(自分もやってみたかったりする)

前置きはどうでもいい。初めてkindleでしか流通していない作品集を買った。

渡邊博士さんの写真集『Land: 人工の地』


Amazonから紹介文を引用する。

東京湾に隣接する広大な埋立地の変貌する風景を心象写真として撮影した写真集。
放置された無人の地が無機質な風景に移り変わっていくが生活感のない光景は開発前と変わることがない。

表紙の小さなサムネイルを見ても、おもいっきりツボなのは間違いないので即購入。

『迥眺風景』もそうだったが、自分に近い感性(というと怒られそう)を持った表現者を見つけたことへの興奮が先に立ってしまって、作品を言葉で説明するのが難しい。
作品としてもちろん素晴らしいし、出会えたことが嬉しいが、やりたいことを先にやられてしまったことへの羨望もある。

既視感があるのは、作品としてありきたりだから、というのではもちろん無く、自分も確かにこんな風景を”体験”し、”思い描いた”からだ。実際に見たかどうかは問題じゃない。
それは想像でも幻視でも構わない。もっと深い部分での”共鳴”だ。

冷静に語るのは無理。
ただやっぱりkindle版だけでは惜しいので、一冊の本として出版してほしい。作者の写真集には他にも面白そうなものがたくさんある。ちょっとずつ揃えたいが、本棚に並べていく悦びが無いのは淋しいなー。

とにかく写真展があれば絶対観に行こう。