細野晴臣「HOCHONO HOUSE」

最初にアルバムの内容を耳にしたときには、なんだか後ろ向きな企画に思えてしまった『HOCHONO HOUSE』。
実際に聴けばもちろんそんなことはなく、いいアルバムだ。


↑でもジャケットは微妙。
アナログをhmvで買ったのだが、梱包がまずくてジャケ右上が少し潰れてた(悲)

いかにも宅録らしい一発録りや、70年代のライブ、インストに生まれ変わったあの曲まで。
単純な新録ではなく、過去の音源も使われていたりして面白い。
もともと名曲揃いだし、どんなアレンジになろうと曲の良さが損なわれることはない。

レコーディングは難産だったみたいだが、いつも通りセルフライナーノーツも示唆、というか個人的には謎かけに満ちている。
〈最近の音楽はデザインに近い〉とか、ここ数年で〈音楽のアルゴリズム〉が大きく変化したとか。
細野さんはどれくらい先を歩いているんだろう。

「エンターテインメントアーカイブ 怪奇大作戦」

値段に少し躊躇したが、『怪奇』のムックなんてそうそう出るもんでもないので購入。
紙質も印刷もいいし、数十年前のファンコレと価格を比較しても仕方ない。

エピソードによって写真点数にバラツキがあるし、1枚も載ってないエピソードすらある(京都篇も)が、それは作品の性質(内容、時期)を考えると仕方ないと思う。
むしろこれだけのスチールが50年も残っていたことに驚くべきなのかも。

ただ、「狂鬼人間」のスチールは、少なくとも日本刀を構えた大村千吉のシーンだけでも何枚か残ってるはずだし、「ゆきおんな」もゆきおんな役の女優さんのアップを撮影してるスナップを見たことがあるので、探せばまだあるんじゃないかと思わなくもない。

併録の『戦え!マイティジャック』はページ数合わせだろうが、作品自体に思い入れがないので特に不満もない。
ただ個人的には、『恐怖劇場アンバランス』のほうが、内容的にも話数的にもちょうど良かったんじゃないかと思う。『アンバランス』だと出演者が豪華すぎて余計値段が上がってしまうか。

そんな感じで、本の内容にはそれほど不満もないが、誤植の多さだけはどうにかしてほしかった。
明らかに校正ミスな箇所が気になる。そこだけが残念。

「怪奇大作戦 / セカンドファイル / ミステリー・ファイル オリジナル・サウンドトラック」

正直に言ってしまえば、リメイク版2作品には興味が無いので、オリジナルだけの2枚組ならお値段ももっと手頃だったろうに、とは思う。
とはいえ、CINEMA-KANなので内容に間違いはない。

ライナーノーツ含めて、所有欲を満たしてくれる丁寧な仕事だ。
音質も、ミュージックファイルより音圧が上がった上に解像度が上がったような印象。
1トラックに複数の楽曲が収録されてるのはミュージックファイルと同じでちょっと残念だが、短いブリッジ曲が多いから仕方ないのかもしれない。
「吸血地獄」からのME抜粋1曲目に収録されてる曲(極端に高音域に楽器が固まった曲)はマスターテープが発見されることを期待してたのだが、やっぱり無理だったようだ。どこかに眠っていてくれないかな。

地味に嬉しいのが、ディスク2最後に収録された「モーツァルトの魔笛の主題による変奏曲」。
『怪奇大作戦』後半は、追加レコーディングされた音楽の6ミリテープも紛失してるそうだし、スチールもほとんど現存していない。
(おそらくもうスチールマンが現場に来ることも少なかったんだろう)
「『怪奇大作戦』の挑戦」によれば、円谷英二は番組途中から試写の感想を日記に記さなくなる。
2クールで終了が決定している番組など、監修者として一応チェックはするものの、もはや関心が持てなかったのだろう。
成田亨や金城哲夫が次々と退社し、テレビ局からの発注も途絶えた円谷プロには冬の時代が到来する。

「魔笛の主題による変奏曲」は、そんな円谷プロへのレクイエムのように響いてくる。
実相寺監督が当時のプロに集まった人達を懐かしんでいるような、そんな錯覚にまで襲われる。

井戸まさえ「無戸籍の日本人」

この本は去年の頭、出版されてすぐに読み始めていたんだけど、読み進めるのが辛くて中断していた本。
『万引き家族』を観終わって、このタイミングで読まなきゃいけない、そんな気に駆られて読了。

様々な事情で戸籍を持てずに生活することを余儀なくされている人々を、元当事者で現在は支援団体を運営している著者が書いた、無戸籍についてのノンフィクション。
いろんな事例が載ってるが、とりあえず一番大きな問題は民法の古さだと思う。
772条の問題(離婚後300日問題)なんか絵に描いたような男尊女卑。右寄りの連中が改正に消極的なのも納得。

著者は、悪意を持った誰かではなく、普通の人々が〈善意の加害者〉として振舞ってしまうことの弊害を強く説いている。
誰もが無意識のうちに抱えている偏見。悪意を持とうとして悪意を持っている人間より余程厄介な代物。
ないこと、いないことにされていた問題を〈可視化〉していく活動の大切さと困難さがよくわかる。

巻末の著者と是枝監督の対談はページ数もあっさりしたものだが、本書が『万引き家族』にいろいろと示唆を与えていることがわかる。