氏家幹人「大江戸死体考 人斬り浅右衛門の時代」

タイトルに偽りあり、とは言わないまでも、本文の7割ぐらいは副題の〈人斬り浅右衛門〉、つまり据物師山田浅右衛門についての本。
なので、江戸の人々の死生観なんかについては導入として触れられている程度で突っ込んだ記述はない。
そこは期待外れだったが、歴代の浅右衛門をめぐる考察は結構面白かった。ほとんど知らない人だったので。

著者の語り口が軽すぎて、かえって悪趣味さを醸し出してるのもご愛嬌。

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中島岳志「秋葉原事件 加藤智大の軌跡」

もう10年も経つんだなぁと思いつつ、ひょっとしたら読まないほうがよかったかもしれない一冊。

事件当日は神保町でバイト中だったので、急にあたりがヘリの音で騒がしくなったり、絶え間なく救急車のサイレンが聞こえてきたり、この事件についてはやけに鮮明に記憶している。
とはいっても、それほどショッキングな事件だと感じた記憶もない。何事も全貌が把握できるのは距離を取ってからだ。

加藤智大の軌跡を辿っていくと、著者がいうところの〈痛み〉を感じる瞬間も結構ある。
「わかるよ」とは言いたくないが、共感してしまう瞬間があり、加藤のほうが自分よりもマトモに生きているように感じられる瞬間もある。
人を殺したか殺してないかだけで、加藤や宮崎勤と自分との距離は結構近いと思わざるを得ない。

余談。
〈プロローグ〉を読むと、秋葉原がパソコンと家電の街からオタクの街に変貌していく、ほんの束の間に自分が立ち会っていたことがわかった。大体96〜97年ぐらい。
海洋堂ホビーロビーやガレージキットを取り扱う店もそこそこあって、それでも秋葉原といえば石丸電気やビックカメラ、そういう時代。
あの頃の秋葉原なら、もう一度行ってみたい。

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「怪奇秘宝 『山の怪奇』編」

洋泉社のムックはどれも面白そうだが、当たり外れが極端に大きいのが難。
あとムック時代の『映画秘宝』と比べると活字が大きいぶん損した気になるのも難。(これは洋泉社に限ったことじゃなく、全般的に本の活字は大きくなってきててイヤなのだが)


『怪奇秘宝』を買うのは初めてだ。
津山事件や長岡京ワラビ採り殺人、海外ネタではディアトロフ峠事件などなど、ベタなネタばっかり。
ディアトロフ峠事件のページでは、かの「オカクロ」さんから図まで引用している。もちろん内容自体はしっかり読めるものだけど。

あとこれは苦言だが、実話怪談系の書き手さん達は枚数が多いと文章が書けないんだろうか。
とりあえず「奇妙なことに」「不思議なのは」を使って書いとけばいい、そんな印象が拭えない。

ということで新鮮味は少ない。ただその『不思議ナックルズ』的な佇まいが妙に懐かしかったので、つい買ってしまった。
パラパラと眺めただけだが、山の怪奇特集とは関係のない記事の方が気になる。宗教アニメ特集なんてすごく濃くて面白い。

ほんのちょっと高いが、夏の夜の暇潰しにはぴったり。

佐木隆三「深川通り魔殺人事件」

電波系の始祖、川俣軍司。
リアルタイムかどうかは関係なく、逮捕時の写真を見たら脳ミソにひっついて一生とれなくなる、悪い意味で印象的な事件。

fukagawa

求刑も判決も無期懲役で、死刑じゃないのは心身耗弱状態での犯行だったから。でも原因はシャブ。
…なんかおかしくないかい。病気ならともかく、シャブ中だったことが減刑の理由って。

判決でも情状の余地無しって言われてるし、実質的には終身刑だろうけど、なんか釈然としない。
無理とは解ってても、求刑するだけ死刑求刑しておくべきだったんじゃないの。

ただ、軍司に接触した人はみんな、「可哀想なやつ」って印象を抱いてて、それはなんとなく解る気もする。
コンプレックスをこじらせた負のオーラが出てたんだろうな。

佐木隆三「死刑囚 永山則夫」

nagayama

永山則夫について、本人が書いたものと事件の概要を他者がまとめたもののどちらを先に読むか少し迷ったが、無難に後者から読むことにした。
とはいえ大体の知識は他の本やネットで得ているので、事件の細部を知り、間違った記憶を正すのが目的。
佐木隆三の筆致は客観的な視点から少しも離れずちょっと淡白だが、事件の細部を知るには最適か。犯行の描写も生々しい。

でも一番興味深いのは事件の前後。永山が育ってきた環境や風景と、逮捕後の永山が辿った心境の変化だ。
前者については本書にも詳述されているが、足立正生の『略称・連続射殺魔』を観てみたい。切通理作の『怪獣使いと少年』で知った映画だが、なんとなく北野武、中上健次、永山則夫の三者に通底する風景がこのドキュメンタリーにあるような気がする。

この本のメイン(?)は逮捕後、死刑判決までの永山の心境の変化を追った部分だと思う。
強硬な態度から一転、後悔を口にし、それでもどこか独善的な態度は崩さず、そのうち文筆活動を始め、弁護士の解雇を繰り返し、獄中結婚、離婚、弁護を引き受ける弁護士もいなくなっていき、いったんは無期懲役になりながらも最後は死刑判決を受ける。
永山の日記も引用しながら、内面の変化が描写されていく。差し戻し審での死刑判決が濃厚になってくると、いったんは持ち直していたように見えた永山も再び荒れ、落ち込んでいく。生々しく痛々しい。

彼が獄中で書いたものも、とりあえず『無知の涙』は買ったので追々読んでみたい。
ただ、文章自体がどれだけ素晴らしくても、獄中の永山の独善的な態度が(情状酌量の余地は充分あるといっても)どうしても好きになれないので、もう少し時間が経ってそのへんのバイアスが薄れてから読もうと思う。

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合田一道「裂けた岬 『ひかりごけ』事件の真相」

misaki

武田泰治の「ひかりごけ」は読んでいない。たぶん積ん読のままになってるはず。
とりあえず小説じゃなくてルポのほうを先に読みたいと思って本書を買ったのだが、イマイチだった。

食人行為をした船長は口が重く、何度取材しても口を開いてはくれなかったという。そりゃそうだろうな…。
なのに本文は、船長のモノローグ調でまとめられている。読みやすいように配慮したのかもしれないけど、正直どうかと思う。
何年もかけて船長から引き出した言葉なのに、苛立ってるオッサンがスラスラと喋っているように読めてしまう。
これじゃ船長の人物像をきちんと伝えてくれているとは思えない。著者の質問に言葉を詰まらせる様子、そのときのちょっとした動きなんかも描かなきゃ意味がないように思う。
モノローグっぽくした弊害で、提示される資料の説明まで船長の口からなされるというヘンな文章になってしまっている。そのせいでウソっぽく感じられるところもある。

事件自体は今でも衝撃的だし、当時の裁判関係者が持っていた資料写真(現場や被害者の骨まで)もあって驚かされるが、肝心の文章が読ませてくれないのでもったいない。
「ひかりごけ」を読もうかな。

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筑波昭「連続殺人鬼 大久保清の犯罪」

okubokys

大久保清についての本を読みたかったところなので、著者名をよく確かめずに買って失敗。
この人の本は前に「津山三十人殺し」を読んだことがあるけど、文章に魅力がないというか深みがないというか引き込まれないというか…。

「津山〜」は引用文と地の文のバランスも悪くて読みにくかった。本作はそんなことはないが、やっぱり単に事実を羅列してるだけという印象で、これほどの犯罪なのにちっとも印象に残らない。
あまりにも作者の私情が入りすぎるのも良くないのだろうが、新聞の社会部が編んだ本でもないのだから、もう少し著者の色を出すべきじゃないのか。この人は別名で小説を書いて筑波名義はノンフィクションに限っているようだが、ノンフィクションを意識しすぎてつまらなくしているような気がする。

別の本で調べ直したい気分。あとビートたけしが清を演じた「大久保清の犯罪」も観たい。ビデオ化はされてるみたいだし、ブルーレイ化かCSでの再放送を頼みます。

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