E.M.シオラン「生誕の災厄」 – 優しい絶望


シオランのこの本は、なんとなく手にとって開いたところを読むので、何度読み終えても読み終えることがない。

不思議な本である。
相当に辛辣で皮肉なことを言ってるのに、それを押しつけてくる腕力がないというか。
口調が優しい。自分の言葉が正しくても間違っていても問題じゃない、といった態度。
否、問題じゃないとは思っていないだろうけど、反論が来たら、すぐに言い負かされてしまいそうな、それを良しとしているような著者の姿が見える。

本当に絶望すると、人は無駄な理論武装や警戒を解くのかもしれない。だって絶望しているから。
ここまで無防備でいいのか、こっちが心配になるくらいで、最後のページを読み終えても、また別のページをめくってしまう。

それにしてもシオランほどの著者の本が、どの文庫にも入ってないのは不思議。
もちろん紀伊国屋書店には敬意を表すけど、寝る前に本の状態を気にせずパラパラ読みたいから、ちくま学芸文庫あたりにも入ってほしい。

E.M.シオラン「生誕の災厄」

古本屋で買った『BOOKMAN Vol.26』(1989)の〈秘密のベストセラー〉で取り上げられていたので購入。絶版にならずいまだに版を重ね続けているのが流石。

厭世観に満ちたアフォリズム集。基本的には、あらゆる語彙を使って〈生まれてきたくなかった〉と書いてあるだけ。
だから読んでいて愉しいが、なんとなく深みもない気がしないでもない。

疲れ切っていて、ここから議論に発展させるのも面倒臭がっているような作者の姿が浮かんでくる。
「反論があればどうぞ、そこから始まるものは何もないから俺はなにもしないよ。大体始まったとしても知ったこっちゃない」、そんな感じ。
だから読者は疲れない。(もしくはこの本を手にした時点で作者同様疲れきってる)し、そこが良い。どうでもいい。