小津安二郎「麥秋(4Kデジタル修復版)」@神保町シアター

待ちに待った『麥秋』の4Kリマスター版。

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ところが以前観た『東京物語』と同じで、これまで観たプリントの状態も悪くなかったしモノクロということもあって、画質の向上はビックリするほどではない。もちろん傷やコマ飛びは無くなっている。

ただなんかもう、観ているうちにどこがよく見えるようになったとか台詞が聞き取りやすくなったとか、そんなことはどうでもよくなる。
いつも通り、松竹マークから最後の麦畑まで、至福の時間に身を委ねるだけ。

どうしてこんなに好きなんだろう。

小津安二郎「晩春」@神保町シアター

紀子三部作の中ではそれほど思い入れがない作品(あくまでも3作の中では)。

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小津の映画を観始めた頃は、得体の知れない心地良さに浸る一方で、「こんな映画、小津じゃなかったら女性蔑視でアウトなんじゃないの」と思ったりした。
小津映画のヒロインは大体、「もう嫁にやらにゃあ」なんて感じの周囲の思惑で縁談を持ち込まれ承諾し、泣きながら「お父様お世話になりました」になる。

時代の違いと言っちゃえばそれまでだが、初めのうちは結構違和感があった。いまも完全に無くなったとは言えない。
それでも、京都の夜、笠智衆が娘に幸せについて語る場面は観るたびにジーンとしてしまう。もっと歳いってから観たら号泣だろうな。

追悼・原節子

神保町シアターから帰ってきたら、原節子さんの訃報。
邦画黄金期の女優さん達については、覚悟は出来ているつもりなのだが、やっぱりショックは大きい。
原節子さんは、今もどこかで生きてると思うと少し安心できたり嬉しくなったりする女優さんだった。

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紀子三部作はもちろんすべて好きだが、『麥秋』はすべての映画の中でベストワンだ。奇蹟のような映画だと思う。

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小津以外の作品だと、成瀬の『驟雨』が演出も演者も脂が乗ってて好き。あとは『娘・妻・母』。どうということもない作品だけど、デコちゃんとの久しぶりの共演が嬉しい。

名女優は去り際まで完璧だった。ご冥福をお祈り致します。

小津安二郎「長屋紳士録」@神保町シアター

小津の戦後第一作『長屋紳士録』も神保町シアターの「1945-1946年の映画」特集で。
ただ本作は47年封切。

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人情喜劇、しかも子供絡みは苦手な部類。でもそこは小津なので、過度に湿っぽくならずにいいテンポで流れていく。
子役よりも飯田蝶子が可愛い。怒った顔が怖くて特に。
谷よしのさんも笑っちゃうほど若いし、河村黎吉も渋くていい味出してる。

築地本願寺を捉えたショットが出てくるが、周りの風景が今とあまりにも違うので、しばらく築地本願寺だと分からなかった。あらためて観ると変な建築。あの川は築地川だろうか。

お約束で茅ヶ崎も出てくるが、本作の主役は東京。

是枝裕和「海街diary」@TOHOシネマズ日劇

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原作を知らないので映画化云々を聞いてもピンと来なかったけど、是枝監督にこのキャストで鎌倉が舞台ならハズレることは無いので雨の中を日比谷へ。
夏帆ってケータイ刑事のイメージしかなかったけど大人になったなーとか、やっぱり東宝シンデレラはいいなーとか、綾瀬はるかと広瀬すずはしっかり似ててうまいキャスティングだなとか、ぼんやり眺めているだけで楽しめる。今回の樹木希林は浦辺粂子にしか見えない(似てないけど人物の存在感と作中の在り方が)。

食事シーンがこれまでの是枝監督の映画と比べても多い。高峰秀子さんと同じく、人がものを食べているところは醜いと思うほうだけど、この映画では不快感はない。美味しそうだなと素直に思える。食べ方が汚いタレントとは違うし音響もきちんと設計されてるからだろう。

正直言って『歩いても歩いても』や『幻の光』を観たときのような新鮮な感動はない。でも初めて観る映画なのに何度も観ているような安心感がある。
鎌倉の海と家からどうしても『麥秋』を思い出してしまうが、そういう表層的な部分だけじゃなくて、〈いのちの移ろい〉が通奏低音として奏でられていることが大きいんだと思う。
端的に言えば老人達の子供へのまなざしの温かさ。本作に限らずに『幻の光』から一貫してるけど、そういう場面を観るたびに、『麥秋』で宮口精二が笠智衆と碁をしている場面を思い出す。

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ジャズタモリ特集はグラビア以外たいして面白くなかったけどこれは大丈夫そう。

小津安二郎「東京物語」「彼岸花」「お早よう」@神保町シアター

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神保町シアターの小津特集、今週の3本はすべてデジタルリマスター修復版。
早めに神保町に着いてしまって、劇場にもチケット発売の20分前ぐらいに着いたのだが、すでに30人ぐらい並んでいた。こんなのは初めて。

「東京物語」
これはモノクロのせいかそこまでのリマスター効果はないように思えた。前回観たプリントも状態が良かったのでその印象もあるのかもしれない。

「麦秋」に劣らず好きな一本だ。香川京子さんも出てるし。堀切好きとしては山村聰の病院が堀切にあるのも嬉しい。60年前の荒川を見ることが出来る。

この映画で一番の名演は杉村春子だろう。
脚本の良さもあるが、あそこまでリアルな人間像を演じられる人も滅多にいない。ああいうおばさんて必ず親戚に一人はいる。いなくてもいると錯覚させられてしまう。

初めて観た時から笠智衆が「今日も暑うなる」というシーンが大好きだ。
彼の生きてきた歳月の重みが凝縮された名ゼリフだと思う。

「彼岸花」
リマスター効果絶大。画質が鮮明で発色も鮮やか。アグファカラーは赤系に特徴があるのかな。

紀子三部作なんかと比べると何も考えずに観られるというか、オールスター大作然とした佇まいが好き。
久我美子の出番が少ないのは残念だが、そのぶん他の二人が綺麗。
ここでのお富士さんはとにかく可愛い。膝立ちでにじり寄ってきてお酌するところとか堪らない。山本富士子は大映以外の出演作のほうが生き生きとしてる気がする。
有馬稲子は対する父親が佐分利信なので余計に芯の強さが際立つ。あんなオヤジに堂々と自分を主張できるのは凄い。カッコイイ。

助演陣も豪華で、浪花千栄子はもちろん、ファンとしては中村伸郎がいい味出してて嬉しい。
唯一の欠点は同窓会のシーン。どうしても好きになれない。でも一の谷博士の相変わらずクサい芝居はいいね。

「お早よう」
これもリマスターが効いてる。もっとも初見なので以前のプリントとの比較は出来ないが。都市部の場面は少ないので鮮やかなネオンとかはないが、土手の芝や空の青さが眩しい。

ご近所の奥さん達の間で噂が広まっていく様子が、笑えるように描かれているもののムラ社会特有の閉鎖性を映し出していて少し怖い。
小津の映画につい“良き時代の日本人”を見てしまいがちだが、こういう陰湿さも今とは比べ物にならなかったのだろう。

「彼岸花」と続けて観るとこっちはオバサンばっかりなので、この映画が久我さんのための一本ということがよくわかる。でも久我さんもそれほど女性としては描かれていない。どちらかというと子供達のお姉さん的存在。

前作が鎌倉や京都も舞台にしていたのに比べると、殆どご近所で話が済んでしまうのでこじんまりとした印象があるが、結構楽しい小品だった。

小津の映画に出てくる人々は、「東京物語」の笠智衆にしろ「麦秋」の菅井一郎にしろ、〈欲を言えばキリがないよ。今が一番幸せだよ〉という生活観を持っている。
それは老成と言ってしまえばそれで片付くんだろうが、それで片付けちゃったら一番大切なものを見落としたことになると思うのだ。

小津安二郎「麥秋」@神保町シアター

神保町シアターで小津安二郎生誕110周年の特集上映。「麥秋」を観てきた。
ozu

観るのはこれで3回目だが、これが自分にとって最高の映画かもしれないという漠然とした思いが確信に変わった。
かと言ってどこがどういいのか説明するのが難しい。とにかくすべてが心地良いとしか言いようがない。

映画にしろアルバムにしろ小説にしろ、どこかに不整合や欠点があって、それを愛せるようになれるものじゃなければ作品じゃない、と個人的には思う。
これは個人の主観の問題なので説明しづらいが、たとえば『Sgt.Pepper’s』は一曲だけマイク・リーンダーのアレンジが混じってるとか、『門』の宗助の参禅は唐突だ、とか、『赤ひげ』にはアウトローへの視点が足りない、とかなんでもいい。その後に、“でもそれが好き。その欠点があるからこそ好き”という言葉が続けばいい。

そういう視点から観ると、『麥秋』には欠点が無い。完璧なのだ。
世の中に完璧なものなんかあるはず無いし、そんなものがあったとしてとても愛せないと思うのだが、『麥秋』はそういう有り得べからざる作品なのである。
この感じをどう表現すればいいのか、これからもずっと悩んでいくと思う。

今まで観たフィルムは100周年の際にプリントされたものだったが、今回観たのはそのロゴが冒頭に入らなかったので古いプリントなのだろう。そのわりには状態が良いフィルムだった。
劇中にはニコライ堂も映る。神保町で観るのにぴったりだ。