成瀬巳喜男「女の座」@神保町シアター

後期の小津と同じく、後期の成瀬もタイトルやら内容やらがこんがらがって、どれがどれだか判らなくなる。
突出した作品じゃなくても、脚本も演出も手堅いし、東宝の俳優さん達が演技合戦してればそれだけで満足ではあるのだが。

相変わらず未亡人が似合うデコちゃん、司葉子と星由里子のいかにもな姉妹っぽさ等々、充分楽しめる。
しかし、中北千枝子さんが出てないのか個人的には不満。
中村伸郎が出てない小津のようなもので、どこか物足りない。

あとプリントの状態がちょっと厳しかった。
これもまあ、デジタル上映では味わえないものだからオツといえばオツか。

成瀬巳喜男「乱れる」@神保町シアター

実は初見の一本。


語るところはいくらでもある。
『鰯雲』と同様に描かれる都市化とか、チンドン屋がスーパーの軽トラに取って代わられてるとか、白川由美さんの綺麗さとか、一平君のハマりっぷりとか、斎藤一郎の音楽とか。

でもそんなこんなはどうでもいいぐらい、デコちゃんが可愛い。
義理の弟の加山雄三より11歳年上の設定、実際の年齢でももう若くはない(それでも30代だと思うが)。
それなのにこの可愛さは異常だ。

弟に愛を告白されてからの〈女〉としての変貌ぶり、特に電話で泥酔した弟を心配する母性愛が爆発した口調が堪らない。
そして全編の重みを一瞬で凌駕してしまうラストワンカット。
(『草枕』のラストを思い出す。)

義理の姉に幻想を抱いている自分のような人間には、漱石の諸作と並ぶ猛毒だ。

成瀬巳喜男「放浪記」@神保町シアター

神保町シアター。成瀬・高峰コンビの代表作(の一本)、『放浪記』。
『浮雲』並みに重量級の作品。ただ、あちらは高峰秀子と森雅之のアンサンブル。こちらは高峰秀子の一人舞台。

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ギューちゃんも仲谷昇も小林桂樹も宝田明も、みんなピシッと嵌まるべき場所に嵌まった適役だ。でも結局、高峰秀子の強烈な演技と存在感の引き立て役でしかなかったのだなと思う。
それぐらいに本作の高峰秀子は凄まじい。デコちゃんなんて呼べる雰囲気じゃない。

大学生(?)役で岸田森と草野大悟がチョロっと出ている。まだ若いとはいえ、この二人の存在感を完璧に消し去ってしまう高峰の酔いどれ演技の凄さよ。

流されつつ生きていく人間の哀しみとか可笑しさとかを抑えて描く。成瀬と林芙美子はとても近いところにいる作家なんだろうと思う。

成瀬巳喜男「山の音」@神保町シアター

山村聰も笠智衆に負けず劣らず年齢不詳だ。そして父親役がよく似合う。

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『杏っ子』では香川京子の、『山の音』では原節子の優しい父親。2本とも、娘と並んで歩くシーンが印象的。

原さんの夫は上原謙。森雅之みたいに憎めないダメ男じゃなくて、ただ単に厭な男。
奥さんに子供堕ろさせといて平然としてる冷酷さが、あの顔立ちにハマりすぎて、見事まったく愛せない人間になっている。『めし』もそうだけど個人的にこういう上原謙は苦手。

中北千枝子さんが本領発揮。保険のおばさんでこそないものの、子供2人を連れて半分出戻り状態の奥さんを好演。名女優。

成瀬巳喜男「驟雨」@神保町シアター

神保町シアターの原節子さん一周忌特集。今週は観たい作品ばかり。

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『驟雨』が〈佳作〉とか〈小品〉ぐらいの評価で済まされることが、昔から不思議で不満だ。
間違いなく大傑作だと思う。
このレベルの作品は当時の成瀬には珍しくない、って評論家の言葉もどっかで読んだ。それは当時の成瀬の絶好調ぶりを裏付けることにはなるけども、だからそれらが佳作どまり、ってことにはならない。

ただ、本作を〈傑作〉と呼びたくない気持ちも(別の理由から)ある。
『おかあさん』なんかもそうだけど、そう呼ぶことでわざわざ一段高いところへ映画を祀り上げて自分から遠ざけてしまうような気がする。常套句に頼らずに、自分の言葉で大切に語りたくなる、そんな作品。

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『浮雲』のような得体の知れない凄みはない。でも、小気味よく市民の日常を描いた本作みたいな作品が成瀬の本道だろうと思う。
佐野周二と原節子の会話、原節子と香川京子の会話、三人の会話、小林桂樹と佐野周二の会話、どの場面も大好きだ。
コメディとして作られた同時代の作品より、当時は立派な〈文芸映画〉として作られただろう成瀬や小津の作品のほうが、今観ても笑える。
繊細な日常描写が浮き彫りにする生活者のズルさとか哀しさ、身に覚えのある感情の数々。どの時代の観客にも受け入れられるのは当然のことだ。

だからこそ、やや唐突な最後の場面に小ぶりな作品には似合わないほどのカタルシスを覚えてしまう。『浮雲』にも負けない凄みも、実はあるかもしれない。

成瀬巳喜男「流れる」@神保町シアター

杉村春子先生特集も最終日。『女の座』は未見なので観たかったけど時間が合わなかった。
代わりというわけでもないけど、久しぶりに『流れる』を。

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成瀬でベストはどれか考えてみると、結局これか『驟雨』になる。
これだけの女優さんを揃えて全員の魅力を引き出しつつ作品を破綻させない演出の力は凄い…とかなんとか知ったようなことを書いてるが、成瀬の作家性とか凄さはいまだによく解ってない。でもこの作品は何度観ても素直に圧倒される。

杉村先生はもちろん絶品で、電話で三味線のお浚いをするところとか、男に逃げられた後の取り乱しっぷりとか、凄すぎて観ていて高揚してくる。
デコちゃんは何も言わずガタガタミシンを鳴らす最後のシーンもいいが、障子に寄っかかってる姿が見終わった後もずっと印象に残る。「誰彼構わずご機嫌とるの嫌いなのアタシ」ってセリフは素の高峰秀子そのままだ。
山田五十鈴の諦観の中に意地を匂わせる仕草とか、『おかあさん』と同じくらいハマリ役の絹代さんの名演は言うまでもなく。
個人的に好きなのは珍しく保険屋じゃない中北千枝子さんで、気質的に芸者さんに近いところもある〈玄人の中にいる素人〉を的確に演じてると思う。おまわりさんが来るシーンだと他の皆と一緒にご機嫌取ったりしてるのが可笑しい。

隅田川の風景がたくさん見られるのも嬉しい。ちょこちょこ出てくるネコも可愛い。みんなに首根っこで持たれるのがちょっと可哀想だけど。
そして中村伸郎。この人が出てくると得した気になる。好きな俳優さんだ。

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成瀬巳喜男「晩菊」@神保町シアター

神保町シアターの杉村春子先生特集にやっと来られた。『晩菊』は最終回というのもあって完売。

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写真下手。

『流れる』と同じぐらい、女優陣の演技合戦が楽しめる。内容も『流れる』のさらに後日譚と捉えられなくもない。
望月優子や沢村貞子はお座敷に出てた頃を想像しにくいが、細川ちか子が醸し出す年増の色気がリアルですごい。色気というか生臭さすら伝わってきそうなほど女臭い。

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上原謙が訪ねてきて女の部分を見せる杉村先生もなかなかお茶目だが、やっぱりその後、酔いも醒めて皮肉っぽい調子になる場面がいい。
ただ『めし』もそうだったが、モノローグがちょっとうるさい。わざわざ独白で心情を説明してくれなくても、芝居で細かい心理まで描けてるのに。