溝口健二「雨月物語(4K復元版)」@角川シネマ新宿

新藤兼人の『ある映画監督の生涯』や、いくつかの評論を読むと、〈西鶴や秋成、近松を題材にした晩年の作品は溝口の本道ではない〉と評価してる人も結構いる。
その際〈溝口の本道〉として挙げられる戦前の芸道ものが自分には退屈だったので、〈溝口の本道〉ってなんなのか未だによく解らないのだが、『雨月物語』を再見したら、少なくともこれが本道ではないと言われる理由はちょっと解った気がする。

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原作をきちんと読んだことがないのでどの程度脚色されているか解らない(本編の冒頭にも「新しい物語です」と出てくるし)。ただ、かなり海外の目を意識してるなぁと。
当然『西鶴一代女』の次ってことで力も入ったろうし、永田ラッパが張り切らないはずがない。

朽木屋敷を舞台にしたシーンは特に、〈わかりやすい日本らしさ〉を意識して撮っている気がする。能面みたいな京マチ子のメイクがそのものズバリ。
確かにちょっと外向きで、大映の戦略に乗って撮っているような感じ。溝口を知ってる近しい人からは〈気取ってる〉と思われる部分もあったのかもしれない。

あらためて観ると「浅芽が宿」と「蛇性の婬」のパートの繋がりが若干スムーズさを欠く気もしたが、これだけの作品なので大した傷じゃない。
宮川一夫の撮影も凄いが、音楽も含めた音響設計が素晴らしい。朽木の亡霊の声が徐々に大きくなってくるところなんかはかなり薄気味悪い。
森雅之もはやく気づけよ、とは思うけど、あんな京マチ子に魅入られたらおかしくもなる。

溝口健二「山椒大夫」@角川シネマ新宿

『近松物語』に続いて『山椒大夫』。
上映前に香川京子さんのトークショーがあった。生でお姿を拝見するのは10年ぶり。相変わらずお綺麗でチャーミング。ご自身の出演作に限らず、映画について本当に楽しそうにお話になるので、こちらまで元気になる。

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『山椒大夫』も初めて観たのは新文芸坐だった気がする。香川さんの出演シーンが短くて少しがっかりしたが、田中絹代の演技に圧倒された。
そして美術。燃える山椒大夫の屋敷を窓の奥に捉えたロングショットなんて、秒数は短いが本当に家一軒燃やしてるはず。

久しぶりに観たせいもあるが、ここまでよく出来た映画だとは思わなかった。
当時の映画界の熱気(と永田ラッパの山師ぶり)がダイレクトに伝わってくる。

あ、浪花千栄子先生のアクションシーンも必見。

溝口健二「近松物語」@角川シネマ新宿

初めて『近松物語』を観たときの感動は鮮烈だ。
10年ぐらい前の新文芸坐で、確か『雨月物語』と二本立てだったはず。
凄いものを観てしまった、という気持ちは『雨月物語』や『西鶴一代女』よりも遥かに強かった。

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その後もどこかで上映される度に観ている。観るたびに圧倒されて、溝口映画ベストワンの座が揺らぐことはない。

香川京子のための映画だ。
もちろん香川さんはどんな作品でも綺麗だ。でもこの作品の彼女は別格で、もう神秘的なほど美しい。

琵琶湖に浮かぶ船上で、茂兵衛に愛を告げられたおさんの「生きていたい」という叫び。さらにスピードを増して、息つく間もない逃避行から、ラストシーン、おさんの幸福そうな笑顔まで一気に魅せてくれる。

芝居もカメラも音楽も音響も、完璧。

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上映後のトークショーで香川さんは、自分の演技に精一杯で、周りを見る余裕なんて一切なかったと仰っていた。
それは観てる自分も少し似ていて、あれだけの名優が脇を固めて、セットも音楽も何から何まで凄いのに、結局『近松物語』と聞いて思い出すのは香川さんの名シーンばかり。

本当に素晴らしい。冷静に語ることは無理。
生涯のベストテンには必ず入る作品です。

溝口健二「歌麿をめぐる五人の女」@神保町シアター

なんだかすごく久しぶりに神保町シアターで映画観た気がする。近くに行ったときチラシ貰うために寄ったりはしてたけど。
終戦直後の映画を集めた特集。全部フィルム上映なのが嬉しい。

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溝口の戦後第2作『歌麿をめぐる五人の女』。戦前の芸道ものも何本か観たけど、殆どわからなくて大体寝てしまった。だから多少不安だったものの、これは面白かった。

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46年暮れの公開だから終戦から1年半も経ってない。なのにセットも衣装も完璧。全編を緊張感が貫いて溝口が全開。
田中絹代以外に知ってる役者さんがいなかったのが寂しいが、そのおかげでよりリアリティを感じられたのかもしれない。

主役は〈五人の女〉なので、じつは歌麿さんはそれほど印象に残らないが、ラストの歌麿の「描きたい!」ってセリフには『草枕』を連想した。非人情ではないけど。
戦争が終わってやっと自由に映画を撮れる活動屋の喜びを、謹慎が解けた歌麿に見ることも出来るのかもしれない。

ただ、美味しいところはやっぱり絹代さんが全部持ってっちゃう。ラストの彼女のセリフは『近松物語』で市中引き回しにされる香川京子さんの表情に通じる。ただこっちは救いがないが。

お大名が考えた悪趣味な催しが石井輝男の異常性愛路線をちらと連想させる。わりとシリアスなシーンなんだけど笑いそうになる。

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