白石雅彦「『怪奇大作戦』の挑戦」

『怪奇大作戦』肝心のBlu-rayは金欠でまだ買っていない。
続いてこれからムック本、サントラと出るようなので嬉しい悲鳴。

そんな中、先鞭を切ったこの本だけはとりあえず買った。
8時間弱で読み終えた。

どこを読んでも面白いが、特に序盤、『マイティジャック』の失敗から『怪奇大作戦』放送に到るまでの紆余曲折は面白い。
円谷英二の日記(これも出版してほしいと個人的には思う)からは、社長としてプロ内部を憂慮する気持ちが痛いほど伝わってきて辛くなる。

図版がないのは淋しいし、すでに亡くなられたスタッフの証言は過去のものに依らざるを得ないから新味がない、という恨みもあるにはある。でもそれは大した問題じゃない。主眼はその先の考察なのだから。
そういう意味で、24話に一切触れてないのはどうかと思う。
せめて満田、山浦両氏が番組に参加することになった経緯ぐらいは書いてもいいはずだ。

とはいえ良書には間違いない。

十一月の傑作群

『シルバー仮面』『ミラーマン』と観たら新マンも観たくなった。
新マンは番組中盤が好きなので、何本か借りた。

DVD8巻には、所謂〈十一月の傑作群〉の前半2本が収録されている。
でももう殊更に〈十一月の傑作群〉って持ち上げなくてもいいんじゃないかと思う。とっくに言われてることだろうけど。

たとえばこの8巻なら、オクスターの話だって(大泉滉の芝居が鬱陶しいが)傑作だと思うし、だいたい『帰ってきたウルトラマン』自体、初期から後期まで満遍なく秀作がたくさんある。
逆に「落日の決闘」は〈脚本:千束北男〉のクレジットに盛り上がるものの、そこがピークでそんなに好きでもない。

80年代のファンジンじゃあるまいし、いまさら新マンを低く見るような空気も無いから、殊更に再評価を促す言葉を使い続けなくても…と思う。ただ、言葉の響きが素敵だからつい使いたくなるのも解らなくはない。

どっち付かずになっちゃったが、とにかく〈『帰ってきたウルトラマン』といえば十一月の傑作群〉とか、〈『怪奇大作戦』といえば京都篇〉みたいな、「ここだけは押さえておけ」って感じの使われ方が好きじゃないのだ。

そんなカタログ的な見方してないで、全話自分の眼で観て、自分がどんな話に打ちのめされるかを楽しめよ。
説教ぽくなってきてイヤだけど。〈これだけは見ておくべき○○100〉みたいなやつ、本当に嫌いだ。

そうは言っても「悪魔と天使の間に……」なんかはやっぱり凄い作品だし別格、と思ってしまう自分もいる。
クレジットを見なくてもすぐに市川森一が書いたと判る脚本は作家性も強いが、ウルトラマンが番組終盤にしか登場しないことにもさりげなく意味を持たせるあたりが、職業作家として流石だと思う。

それにしてもゼラン星人役の男の子は。
「かまいたち」の小野松夫と同じぐらいハマりすぎだ。なまじ子供だけに、実生活で苛められたりしなかったか余計な心配までしてしまう。

「DVD シルバー仮面 Vol.1」

『ミラーマン』の次は『シルバー仮面』。
DVD…これ本当にデジタルウルトラプロジェクトと同じスタッフが色補正したの…?原版の状態が悪ければどうしようもないか。

実相寺監督の2本は再見。特に第1話は傑作だと思うけど、自分が子供だったとして、来週も観ようとはなかなか思わないとも思う。
第2話も悪くはないが凡作。

実相寺・佐々木コンビはフォーマットを作っただけで、『シルバー仮面』は実質、市川森一と上原正三の作品と言ったほうがいい気がする。

特に市川森一はノッている。

第4話なんて大傑作だ。「私も科学者の端くれです。宇宙人の脅しになんか屈しません」と言って兄妹に協力の意志を見せながら、ラストでは「私だって春日博士みたいになりたかったんですよ」、そう言いながら研究書類や春日博士の肖像画まで(!)燃やしてしまう湯浅博士。

子供を宇宙人に拐われたんだから、湯浅博士の心変わりを責めるわけにはいかない。
でも本当にそうなのか?それでも科学者の良心を全うするべきじゃなかったのか?
人間の心の脆さを描いて、答えが出ない問いを発してエンディング。

市川森一の作家性が全開。
市川は『ウルトラマン大全集2』(講談社)の座談会でも、『シルバー仮面』に込められた寓意に惚れ込んでしまってやり尽くした、だから『ウルトラマンA』のときは脱け殻だった、と言っていて、本作や第9話を観るとそれはよく解る。

『シルバー仮面』はまさに『怪奇大作戦』の延長線上にある作品で、初期のウルトラ三部作では怪獣の姿を借りていた異端者が、科学犯罪者を経て本作では主人公になった。

〈科学を悪用して社会に復讐するもの〉を描くのが『怪奇』だったが、科学が〈悪用〉されているかどうかを判断するのは結局〈社会〉である。
宇宙人の存在すら信じられていない〈社会〉で、科学の〈平和利用〉を目標としながら、それでいて他人を巻き添えにして流浪する兄妹は、『怪奇』の犯罪者たちと紙一重のところにいる。

社会から排除される運命が定められている人間達が主人公とくれば、市川森一が乗らないわけがない。

上原正三ほどには『怪奇』の犯罪者たちに自分を託せなかった市川森一が、遂に開花したのが『シルバー仮面』だったのだろう。

「戦え!マイティジャック 炎の海を乗り越えろ!」

『マイティジャック』よりは面白そうだと思ったらそうでもなくて、今度は低年齢層を意識しすぎた感じ。まんま『ウルトラマン』なオープニングは潔いと言えなくもない。
でもこれなら冗長でも『MJ』のほうが好きかな…。
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最近初めて観た『戦え!マイティジャック』第1~2話の感想はこんな感じ。続けて観る気になれないので1クールは飛ばして、〈なんでもぞくぞくシリーズ〉を観ることにする。

第14話「炎の海を乗り越えろ!」はいきなり大ダコ。特撮はそこそこ見せてくれるが、かつて円谷英二が映像化を夢見た空飛ぶ戦艦と大ダコのふたつが、絡み合って空を飛ぶ構図のバカバカしさには妙な寂しさも覚える。『MJ』スタート時にはスタッフの誰一人として想像しなかった画だろう。

ストーリーは市川森一お得意の、レギュラーの身内にスポットを当てたもの。
でも軍艦マーチと「海の男」という言葉で全部片付けようとされてもちょっと困る。

「恐怖劇場アンバランス 仮面の墓場」「殺しのゲーム」

『DVD恐怖劇場アンバランス Vol.2』。
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第3話「殺しのゲーム」。
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理性的で誠実な岡田英次と、正気と狂気の間にいるような田中春男の対比はいい。
田中春男は好きな俳優さんだが、溝口や成瀬の映画で見られる軽妙な関西人風情とは打って変わって重い雰囲気。いっぽうで岡田英次は極端に言えば『また逢う日まで』からたいして変わっていない。

ただストーリーと演出は平凡。長谷部安春とは相性が悪いのかもしれない。お行儀がよくてあまり印象に残らない一本だった。

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対照的に、作り手の尖りっぷりが半端じゃない第4話「仮面の墓場」。
市川森一のやりたい放題な脚本を、最高な状況にいる唐十郎を使って山際永三が好き放題に撮る。つまらないはずがない。

火葬場・焼身恐怖症なので、ボイラーのシーンが嫌でずっと避けてきたが、無理してでも観るべきだった。めちゃくちゃ怖いが本当に面白い。
緑魔子とか濃いメンツが出てるものの、ほとんど唐十郎の一人舞台。ラストの一人芝居はもちろん凄い。そしてそこに到るまでゆっくりと狂っていく芝居も真に迫っていて怖いったらない。何人焼けば気が済むんだ貴方は。
とにかくオーラが凄いし、目が怖い。

『アンバランス』がお蔵入りになっていちばん割りを食ったのは本作や「木乃伊の恋」あたりじゃないだろうか。
69年のゴールデンタイムと73年の深夜枠じゃ、受け手の唐十郎に対する認識がかなり違っていたはず。
もしも予定通りに放送されていたら…。

「別冊映画秘宝 ウルトラセブン研究読本」

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まだ少ししか読んでいないが、気合い入りまくり、貴重な資料満載の名著である。
「ウルトラセブン」関連の名著だと、ファンコレとてれびくんDX、ベストブックあたりが思い浮かぶが本書はそれらを超えたと思う。
とにかくインタビューが多彩。ちょっとした傍役の俳優さんにまで話を聞いている。
怪獣図鑑や特撮メイキングといった定番のコーナーにも、解説として小林晋一郎、三池敏夫を配することで既視感を排除している。

特に面白かったのは上原正三氏のインタビュー。当時氏が書いていたメモが引用されるが、当時円谷プロ、TBS内で「セブン」がどのように捉えられていたのかがわかって興味深い。当時の感覚としては番組後半は視聴率的も苦戦し、プロ内には〈ダルな雰囲気〉が漂っていたそうである。
今回気付いたのだが、「セブン」後半2クールの視聴率よりも「怪奇大作戦」の視聴率のほうが全体的に高めで安定している。それだけ当時の怪奇・妖怪ブームが凄まじかったというのもあるだろうが、怪獣ブーム終焉の寂しさを感じる。そして「怪奇」が実はそれほどカルトな作品ではないという気も。(なんたってタケダアワーの番組なんだし)
上原氏が言うように、金城哲夫氏が「マイティジャック」を手がけずに「セブン」に全力投球していたら、番組後半はどんな路線になっていたのか、想像すると楽しくも切ない。

夢見る力

石堂淑朗氏が亡くなったと思ったら、今度は市川森一氏が亡くなってしまった。

円谷では「ウルトラ」も「怪奇」も「ブースカ」も傑作揃いだし、特に「ブースカ」は、金城さんにも上原さんにも描けない市川さんだけの世界だったと思う。
特撮以外だと「傷だらけの天使」ぐらいしか観てないけど、当然大好きだ。

でもやっぱり、市川森一といえば「私が愛したウルトラセブン」をまず思い出してしまう。

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当時の円谷プロに集まった人々の熱気と、その時代に対する氏の想いが伝わってくる、本当に素晴らしいドラマだった。
前編後編のタイトルがそれぞれ、「夢で逢った人々」と、「夢見る力」
まさしく市川さんの作品から夢見る力をもらったと思う。

デビュー作の「ブースカ月へ行く」は、円谷英二監督の「かぐや姫」への想いを知って書かれたそうな。そんな氏が皆既月食の夜に旅立つのも、不思議な感じがする。
ありったけの感謝をこめて。
御冥福をお祈り致します。